エンジンのお話

かつてのFAQ用の文章です…

なぜ回転数が高いほど馬力は上がるんですか?
ミニカー博物館のFAQのターボの記事で排気量が大きいほど馬力は上がるって書いてあったのですがF1では、みんな同じ排気量ですよね…

馬力は通常PSで表示されていますが正確には車のカタログなどでは120ps/4200rpm等と表記され、これは「このエンジンが一番馬力を発揮するのは1分間に4,200回転廻っている時で120馬力出ています」って意味なんです。

仮に1秒に1回廻る排気量100ccのエンジンがあるとします。これを排気量は変えずに改造して1秒間に2回転にしました。すると同じ1秒でも改造したエンジンは2回、すなわち200cc分爆発していますから1秒あたりの出力は2倍になっています。(なんか詐欺師っぽい書き方の様な気もするけど…)

そーゆー訳で馬力が上がるってのは爆発する力と単位時間当たりの回転数の関係があるんです。もちろん、逆に言うと同じ回転数なら通常では排気量が大きい方が出力は上がる訳ですね。まぁF1では排気量は決まっていますからあれですけど。

でもって、爆発する力や回転数はエンジン内部のつくりの良し悪しが問題になります。ピストンが動く部分の仕上がりが雑でスムーズな動きができなければ回転が上がりづらくてその抵抗で爆発した力もロスします。ピストンの動く部分がスムーズであれば回転しやすいし爆発力が無駄なくピストンを動かす事になりますよね。

また、ガソリンの燃焼の仕方でも爆発時の出力が変わります。シリンダー内にある量のガソリンを空気と混ぜて霧吹き状にシリンダー内に噴射し、それを圧縮し点火して爆発するのですが、その際に噴出したガソリンがきれいに全部燃えるのと燃え残りが起こるのでは爆発時のエネルギーに差が出るって感じですよね、おまけに燃え残りがあるって事は燃費にも悪影響ですし…

って訳で、同じように燃焼し同じように精巧に出来ているなら回転が高い方が単位時間あたりの爆発回数が増え、結果出力が大きくなります。しかし、だからといって回転を無茶苦茶あげると機械的に無理が出てきます。ピストンの往復にバルブの往復が追いつかないとか、それにエンジン内部の部品同士が擦れたりぶつかったりする磨耗や衝撃も、回転が上がる=速度が上がってどんどんと大きくなってエンジンが壊れやすくなってしまいます。でもって、現在のF1では一時期19,500rpm位まで上がり20,000rpmまで後一歩だったのですが…1GP、2GPでの1エンジンレギュレーションでエンジンの消耗率を抑える事もちょっとは必要なので19,000前後の回転数になっていると思います。

具体的にはクランクシャフトの捩れとかバルブ・スプリングの問題その他いろいろな問題があって回転数も決まっていくのですが…今回の質問に関してはこんな答えでどうでしょう?

この回答で物足りない方のために、ちょっとここで雑学を…
エンジンブローの原因の一つでクランクシャフトやコンロッドの破損ってあるのですが、あれは私はエンジン内部すなわちシリンダー内の爆発の衝撃を受けての疲労と思っていたのですが…最近のF1エンジンでは違う理由が大きいらしいです。それは、高速で上下するピストンの重量による慣性の影響でコンロッド等が疲労するそうで、例えば下死点に達した場合クランク+コンロッドはピストンを上げようとしますが、ピストン自体には下に行こうとする慣性が働いてますからコンロッドはピストンとクランクで押しつぶされるようになりますし、上死点でも同じようにコンロッドは引き伸ばされる訳です。という訳で爆発の影響で壊れるエンジンなどはそれ以前の論外の物らしいですね…

だから同じマルチシリンダー化が有利といっても70年代は単純にショートスロークって点が大きかったのですが、現在では、ショートスロークに加えてピストンが小型化でき慣性を小さくできる魅力もあるんですね。って、こちらももうすぐV8に限定されちゃうけど。

また、夢の20,000回転ですが、到達できない理由も今まではバルブのスピードや機械的な強度等と言われることが多くて、ルノーBMWで噂になったリニア・バルブを実現しなければって話もありましたが…これも、すでに私の予想の範囲を超えていて、ホンダでは「機械的」には既に到達できるレベルにあるそうです。では、なにがネックになるかと言うと燃料噴射時の噴射のスピードや空気との混合の仕方やシリンダー内でのストール状態あたりの燃料系の方が問題になって、20,000回転の世界では安定して良い状態を続けられず、こちらの方がなかなか難しいそうです。

…でも、凄い世界ですね。